TPP日米事前協議:日本の説明は「粉飾」

保険・農業で完全屈服、米文書には赤裸々に…「交渉参加の撤回を」
東京新聞」-こちら特報部- 2013年4月20日


日本が七月にも環太平洋連携協定[TPP]交渉に参加する未通しとなった。だが、事前協議をめつる日本政府の説明は「粉飾」まみれだ。日米両政府が十二月に日本の交渉参加で合意した際、両政府がそれぞれ独自に発表した文書を読み比べてみると、日本側は都合の悪い情報を覆い隠していた。(佐藤圭-東京新聞

日米両政府の正式な合意内容は、日本の佐々江賢一郎駐米大使と米通商代表部(USTR)のマランティス代表代行が交わした「往復書簡」として発表された。米国が輸入車にかける関税の撤廃時期を最大限遅らせるなど、日本側が大幅に譲歩する内容だ。

ところが、さらに屈辱的な文書があった。「往復書簡」とは別に、USTRが米国内向けに作成した「日本との協議事項報告」だ。A4判3枚半にびっしりと、日本が事前協議で身ぐるみはがされた様子が詳細に報告されている。

具体的な項目では自動車と並び、保険が特記されている。往復書簡では保険などの非関税措置について「TPP交渉と並行して取り組む」と簡単に触れただけだが、USTR文書では「日本郵政の(かんぽ生命)保険」と名指ししている。

「日本政府が一方的に以下のことを告知してきた」とする内容はかんぽ生命保険による「がん保険」などの新商品販売を事実上認めないというものだった。

一方、日本が関税撤廃の「例外」扱いを求めている農業には言及していない。

往復書簡に盛り込まれた「日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品といった二国間貿易上のセンシティビティ(重要項目)がある」の部分は抜け落ちている。

その傍らで「日米共同声明に記載されている通り、日本政府はすべての産品を交渉のテーブルに載せる」と明記。農業の「例外」を認めるかのような往復書簡は、米国のリップサービスに過ぎず、本音は「聖域なき関税撤廃」であることがうかがえる。

日本政府も国内向けに「日米協議の合意の概要」を出した。ところが、USTR文書と比べると、分量はA4判一枚と薄き、屈辱的な合意内容を必死に取り繕っている。

保険の詳しい説明はなく、非関税障壁の一分野として列挙しているにすぎない。それなのに「日本には一定の農産品…」の部分は、しっかりと書き込んでいる。

日本は、不利な情報を意図的に隠したのか、菅義偉官房長官は十八日の記者会見で、日米両政府の文書の食い違いについて「日米で合意したのは、両者が署名した文書[往復書簡]だけだ」と突っぱねた。改革監房のTPP対策本部の担当者は「(USTR文書は)米国の要求内容を例示しているという認識だ。日本政府は関知していない。具体的な交渉はこれからだ」と繰り返す。

NPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子事務局長は「米国の文書だから知らないでは済まされない」と指摘した上で、日本の交渉参加を批判する。

「日本が事前協議で、米国の言いなりになっていたのは明らかだ。本交渉で頑張ると言われても信用できない。今からでも交渉参加を撤回すべきだ。」

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コメント:

日本政府は、今年七月には早くも、交渉参加国の一員としてTPPの本会議に交渉のテーブルにつけるようになったと、報じられている。その過程でどれだけ国民の生活権を無視した(つまり売国的)折衝が行われてきたか、秘密のベールに隠されたままだ。

いや、追究しようとすればある程度明らかになるはずだ。上記の東京新聞の記事は、3月時点での最初の日米交渉の背後を暴ばこうとするマスコミとしての当然の努力を払った一文である。しかし、それ以外の交渉過程の本当の姿が一向に明らかになってこないのは、政府の広報部になり下がっている多くのマスコミの怠慢である。もちろん、社会的役割を忘れた既成のマスコミに、これ以上のことを期待する気はあまりないのであるが。

日本の官僚機構のあり方を見れば、だれの目にも、日本政府がTPP本交渉で、失地挽回などできるはずはないと考えているだろう。それをできるかもしれないなどと宣伝するのは、あまりにも人々を馬鹿にした行為だ。政治家の中では小沢一郎だけが、はじめから、日本の交渉力を考慮してTPPに参加すべきではないと主張してきた。最近、マスコミでも彼の主張が聞こえるようになっている。

【2013年4月20日】「小沢一郎代表 青森ぶら下がり取材」 の動画でも、TPPについて触れている。
http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=_TQR8Eoe8As

はっきりしていることは、自由貿易協定を全面的に排除すべきだということではない。排除すべき経済主体は、アメリカ発「無国籍グローバル・ファンド」いわゆる「はげたかファンド」だけだ。

自由貿易圏の構築を模索するなら、まだほかの道がいくらでも残されている。「TPPに参加しなければ、世界から取り残される!」というデマがまかり通っている。そんなことは決してない。多くの問題を含んでいるとはいえ、中国を巻き込んだ東アジア自由貿易圏、またはEU東アジア自由貿易圏の構想もあると聞いている。どうしてそんなに急ぐのか。

農産物貿易の関税の低関税化は避けることができないかもしれない。しかし、多くの人が指摘しているように、「農業」は経済ファクターだけではなく文化的・環境的あるいは精神的ファクターが強く根を張っている。だから、農業を経済的に自立化させるにしても、衝撃的措置を避けなければ他のファクターが破壊されかねないのである。農業の体質改善(構造改革ではない!)には、政治的に多重の措置を講じて軟着陸させなければならないのだ。

いずれにせよ、現状で選択できる道は、NPO法人「アジア太平洋資料センター」の内田聖子事務局長がいっているように、「交渉参加の撤回」しかないのではないか。そのための、市民の運動を巻き起こす以外にないのではないか。

そうしないと、評論家・天木直人が結論的に予言しているような事態にならざるを得なのではないか。

以下、天木氏のコメントを引用する。

(以下引用)
天木直人・2013年04月13日
 TPPは終った。あとは敗戦処理に消耗させられるだけだ 

 北朝鮮のミサイル発射騒ぎのドサクサに紛れて、よくもここまで屈辱的な日米合意を飲んだものだ。TPP予備交渉という名の対日市場開放要求をめぐる日米交渉のことである。

 「われわれは、あまりに日本に不公平だったので妥協しなかった。安倍政権は妥協して交渉参加表明をすることはないですね」
 3月11日の衆院予算委員会でこう質問したのは前原民主党議員だった。
 すでに民主党政権下において米側は自動車の非関税障壁撤廃やかんぽ生命保険の開放を日本のTPP交渉入りの条件として要求していた。
 そのこと事を暴露して安倍自民党政権にまさか譲歩はしないだろうと迫ったのだ。

 それからわずか1ヶ月後のきのう4月12日、その「まさか」が、あっさりと行なわれた。
 民主党政権でさえも拒否した屈辱的な譲歩が、こともあろうに「日本を取り戻す」と繰り返す愛国・保守の安倍首相の手によってなされたのだ。

 さすがにきょうの各紙は報じざるを得なかった。
「TPP 危うい国益」(朝日)
事前協議 譲歩の連続」、「焦る首相 見透かす米」(東京)
「急いだ合意 目立つ譲歩」(日経)などなど。

 これでTPPは終った。 

 米国は取る物は取った。
 あとは更なる理不尽な要求を次々と日本に突きつけてくるだけでいい。
 飲まなければ議会が日本の参加を認めないぞと脅かすだけでいい。

 その一方で日本は得るものは何もなく、玉虫色で誤魔化した農産物の例外扱いの防戦一方となる。
  しかも例外を認めてもらえる保証はなにもない。 
 すべては日米予備交渉で終った。 あとは不毛な敗戦処理で消耗させられるだけである。

 私がTPPについて語ることはもうないだろう。 TPP騒ぎはもはや終ったのである・・・
(引用終わり))



ここのテーマとは関係ありませんが、北国の春の風景。すがすがしい空気が流れているのです...



















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