青森・「大間原発」建設再開:安倍政府には引くに引けないプルサーマル計画「再稼働」への試金石

地図を見ると、青森県は3つの部分からなることが分かる。青森市弘前市の位置する県の南部地帯、ここは本州の北端に位置する(細かく見れば、ここも弘前地域と東部の「三八上北」地域の2つにわかれる)。その北に二つの半島、西側に津軽半島、東側に下北半島がある。

この二つの半島は、地形的にも社会的にも大きな違いを宿している。津軽半島には、何か歴史をもった情緒豊かさを感じる。蟹田三厩(みんまや)、五所川原、金木、さらに中泊からバスに乗ると小一時間で小さな漁港・小泊に着く。竜飛岬はすぐ先にある。筆者はこの漁港の旅館に泊まり、地元の人々の温かいもてなしを受け、人々と交流の機会を得たことがある。幕末、長州の吉田松陰がロシアの監視のためこの地に視察に来た話しを、当地の郷土史家から聞いた。また、太宰治が戦中に書いた旅行記(帰郷記)である「津軽」の舞台がこの西側の半島だ。

一方、下北半島は、なんというか、農業がないせいか、忘れられた地の感じがする。自然も、北の端の恐山を除けば、ほとんど起伏のない平地だ。過去にさかのぼらないとすると、ここは今、若狭湾に匹敵する原子力施設の中心地になっている。六か所村核貯蔵施設、東通原発大間原発、などなど。

青森県は、その地方行政の在り方がおかしい。県は、原子力施設を誘致する際に、人口密度の希薄なこの下北半島にそれらを集中したとしか考えられない。原発事故が発生したとしても、津軽半島青森市には及ばないと考えたのだろうか。全くばかげているとしか、いいようがない。

福島原発事故後、県の行政、県民は原子力施設の現状をどう考えているのだろうか。それでも、一時中止していた大間原発の建設を再開させた。地元への補助金確保のためにはやむを得ない、というのだろか。

1年ほど前、下北の大湊市を旅したことがある。恐山の入り口にある。大きな町ではない。そこで宿をとろうしたが、どこのホテルも満室で空き室はないと言われた。民宿も探したが、ここも満室状態だった。仕方なく、ホテルの宴会場の付属部屋(酔客の寝間)に泊まった。ホテルの人に、祭りでもあるのか?と聞いたが、口を濁していた。

理由は、翌日分かった。大間原発建設の基地がここ大湊なのだ。建設下請け企業の労働者(職人)が大挙して、この町に泊まっているとのことだった。長期の滞在だろう。朝食をとりながら、そういう業者の一人と話をした。下請け業者の大半は、関西、中部からここ下北に来るとのことで、青森県の業者(労働者)は少ないだろうという。つまり、地元の経済のためには原発やむなしといっても、補助金が落ちるだけで、建設の仕事はほとんど県外の事業所が請け負うのであって、地域経済への寄与はまずないだろう。

「大間」からは、大型トラック用の連絡船が北海道の函館へ通っている。大間原発は、青森市からちょっと距離があるといっても、北海道の函館とは目と鼻の先だ。この「大間原発」の建設再開に関して、函館市は大いに憤りを感じているのだ。函館から見た「大間原発」を新聞記事から拾ってみた。また、東京新聞の【こちら特報部】からの引用である。


東京新聞2014年2月24日 

「大間」差し止め:函館市長に聞く
■30キロ圏でも何も言えず ■事故前の基準で許可 ■フルMOX「危険だけ負わされる」

電源開発(Jパワー)大間原発青森県大間町)の建設差し止めなどを求め、北海道函館市がJパワーと国に対し、訴訟を起こす。自治体が原告となる原発差し止め訴訟は全国初だ。異例の訴訟は、他の原発周辺自治体に波及する可能性もはらむ。工藤寿樹市長は「住民と街を守る責任がある」と話す。 (荒井六貴)

「天気の良い日は、対岸にある大間原発を見ることができる。不安は大きい。国が相手だろうが、黙っていられない」。工藤市長は力を込める。

大間原発は国策会社として設立されたJパワーが、大間町津軽海峡に面した場所に建設している。出力は百三十八万kw。2008年5月に着工したが、11年3月の東京電力福島第一原発事故の影響で、いったん工事は中断。12年10月に工事を再開している。

函館市の人口は二十七万人。最短の地点で二十三キロ。いったん事故が起きれば、大きな被害が及ぶ。五十キロ圏内の人口は、青森県の約九万人に対し、北海道内は三十七万人にも上る。

市は裁判で、Jパワーに対し、建設と運転の差し止めを求め、国に対しては、原子炉設置許可処分の無効確認などを要求する。

函館市原発事故の防災重点地域である三十キロ圏内の緊急防護措置地域(UPZ)にある。それにもかかわらず、原発建設や稼働の同意手続きの関与できない。電力会社と締結する原子力安全協定などの対象は、都道府県や立地自治体に限られている。

国は、三十キロ圏内の自治体に地域防災計画の策定を求めているのに、建設の同意は求めていない。工藤市長は「原発の危険にさらしておいて、発言権はまったくない。説明会を何回も要求しているのに、応じてもらえない。この理不尽さを訴えていく。言うべきことを言わなと、なし崩し的に造られてえしまう」と語気を強める。

工藤市長は福島原発事故直後の11年4月に初当選。大間原発の建設を無期限凍結するよう求める要望書を政府に提出するなどっしてきたが、政府から具体的な対応策が示されることはなく、一方的に建設再開が容認されてしまったという。「再三再四、建設の凍結を求めてきたが、聞き入れられなかった。訴訟を起こすしか手段はない」と強調した。

大間原発の国による原子炉設置許可が、福島原発事故の前の旧審査基準によって出されていることも問題視し、その違法性を主張する。「原発事故前のいいかげんな審査指針で、許可が出されている。それに基づいて工事も再開している。そんな許可は無効だ」

大間原発が、使用済み核燃慮から取り出したプルトニウムとウランを混ぜた混成酸化物(MOX)燃料を100%使用する世界初のフルMOX原発であることも、大きな不安要因だ。核燃料サイクルでできるプルトニウムを使用するプルサーマル計画を推進する手段として位置づけられている。だが、専門家の間では、毒性の強いプルトニウムを使うフルMOX原発の安全性を疑う意見が強い。

工藤市長は「津軽海峡国際海峡で、ほかの地域と比べ、外国のゲリラ船も入りやすい。世界一危ないフルMOXで、世界一テロに弱い原発ができあがることになる」と危機感を募らせる。

(デスクメモ)
大間原発が建設されている青森県下北半島には、使用済み核燃慮の再処理工場など核燃料サイクルの重要施設も多数立地している。大間原発が完成しないと、核燃サイクル計画は頓挫してしまう。すると、原発は立ちゆかなくなる。だから、安倍政権は稼働に執念を燃やす。事故の被害など考えていない。(国)

(筆者メモ)
プルサーマル」とは、プルトニウム・サーマルニュートロン・リアクター(プルトニウム使用熱中性子炉)の短縮単語である。Plutonium Thermalなどと表記するが、完全な和製単語である。
このプルサーマルは以前から計画されていたとはいえ、その本格実施方針は1994年の「原子力開発利用長期計画」による。90年代後半から、具体的な実施計画が立てられ、2000年代に入り、日本全国の原発MOX燃料使用の準備が始まり、すでにいくつかの原発で使用が開始されていた。そして、2010年末までに全国レベルでMOX燃料使用の準備が整っていた。ところが、2011年3月11日の福島原発事故で全てのプルサーマル計画は停止状態に入った。
このような中で、大間原発建設が置かれている状況は、停止状態のプルサーマル計画全体の「再稼働」への試金石とされていることである。(紺)





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