ビキニ・福島・行政秘密

 2014年9月20日東京新聞」(朝刊1面−3面)

ビキニ被ばく文書開示


延べ556隻、検査記録あった
 一九五四年に米国が太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁で実施した水爆実験をめぐり、厚生労働省は十九日、周辺海域で操業していた漁船の放射能検査などに関する当時の文書を開示した。乗組員二十三人が被ばく、うち一人が死亡した静岡県焼津市のマグロ漁船、第五福竜丸以外の船の被ばくを裏付ける資料も含まれ、関係者はビキニ事件の全容を解明する上で「貴重な資料」としている。

 
 第五福竜丸が被ばくした五四年三月のビキニ事件では、多数の日本漁船が周辺海域で操業していた。厚労省によると、文書から分かる範囲では、第五福竜丸以外で国や自治体が検査を実施した延べ五百五十六隻(実数四百七十三隻)のうち、魚の廃棄基準だった毎分百カウント以上の放射線が乗組員から検出された船は延べ十二隻(実数十隻)あり、最も高かった人は同九百八十八カウントだった。

 二週間被ばくが続いた場合、一・六八ミリシーベルトに相当し、同省は「がんなどのリスクが高まるとされる国際基準(一〇〇ミリシーベルト)より大幅に低く、健康被害が生じるレベルを下回っている」と説明するが、内部被ばくの実態が考慮されていないとの指摘もある。厚労省によると、第五福竜丸の乗組員の推定被ばく線量は一・六〜七・一シーベルトとされ、他の漁船と比べ突出して高かった。

写真:厚労省が開示した、ビキニ環礁周辺海域で操業していた漁船の乗組員や魚の放射能検査の結果を示す文書

 開示を請求したのは、太平洋核被災支援センター事務局長山下正寿さん(69)=高知県宿毛(すくも)市=ら。国や関係自治体が五四年三〜六月にかけて延べ五百五十六隻の漁船の被ばく状況を調べた検査結果や政府の会議記録など三百四点(計約千九百ページ)が開示された。

 旧厚生省が五六年に都道府県に出した通知には「(第五)福竜丸以外には、特に放射能症を認められる事実のないことが明らかとなった」との記載もあった。

 ビキニ事件をめぐっては、これまでも漁船の検査結果などの文書で内容が明らかになっているものはあるが、厚労省がまとまった形で開示するのは初めて。職員が公文書の保管倉庫を探し、段ボール箱に入っているのを見つけた。同省によると、情報公開法施行後、今回と同様の開示請求が一件あったが「保有していない」と回答。担当者は「これまで資料が確認されなかったことは申し訳ない」としている。



 「過小評価 福島と同じ」 
 「ない」とされた文書が見つかった。「関係者全員に見せたかったが、ほとんど亡くなってしまった」。開示を受けた太平洋核被災支援センター事務局長の山下正寿さんは、六十年という時間の重みをかみしめるように語った。

 体力自慢のはずの漁師たちが、突然声が出なくなったり、体調を崩す。漁港近くで育った山下さんには、幼心におかしいと思った記憶がある。

 ビキニの被害は第五福竜丸だけではないと気付いたのは一九八五年。当時、高知県で高校教師として地域の現代史を探る高校生サークルを指導していた。県内に住む広島・長崎の被爆者を探すうち、第五福竜丸とは別のマグロ船の若い乗組員が、ビキニで被ばくした事実を知った。乗組員は病気を苦に自殺していた。

 約三百人への聞き取り調査で、がんや原因不明の病気に苦しんだ漁師が大勢見つかった。実習船で死の灰をかぶり、白血病を発症して亡くなった高校生もいた。国は当時、乗組員らの被ばく量検査を行いながら、結果や発病の危険性を知らせていなかった。

 これまで、高知県などが資料開示や調査を要請してきたが、国は「資料はない」「因果関係の証明は困難」と繰り返してきた。しかし昨年十一月、外務省が一部報道機関に対し、旧厚生省がまとめた資料の一部を開示。国内向けには「ない」としながら、米国に渡していたことも明らかになった。

 山下さんは東京電力福島第一原発事故後、福島県相馬市の漁業者と交流を続けている。被ばく状況は異なるが、政府の対応は共通していると感じる。
「(政府は)事故をなるべく小さく見せようとし、重要な事実を隠す。内部被ばくを軽く見ているのも同じだ」と。

 広島‥長崎の次に起きたビキニの実態を解明することは、福島の今を考えることにつながる。今回の開示で、船員や船体の放射能調査、担当大臣らによる会議の議事録も出てきた。「原文には本音が見えるもの。精査し、次の展開を考えたい」六十年前の事件は、まだ終わらない。 (柏崎智子)



 元漁船員「遅すぎる」 
国が十九日開示したビキニ事件の関連文書は、マグロ漁船、第五福竜丸と同時期にマーシャル諸島周辺で操業していた他の漁船も被ばくしていたことを裏付けた。長年放置されてきた元乗組員らは、「今更遅すぎる」と無念さをにじませた。
高知県室戸市のマグロ漁船「第二幸成丸」の元甲板員桑野浩さん(82)は、六十年前の3月、ビキニ付近を航行中に黒い灰が降るのを見た。当時はハワイの火山の噴出物と思い、愛用の帽子をかぶり、デッキに積もった灰を洗い流した。

三十代で白血球野異常を医師に指摘された。「ビキニが関係している」とすぐ思ったが、誰にも言えなかった。がんで胃を半分切除し、被ばくの恐怖から一日でウイスキー一瓶を飲んだ時期もあった。

昨年、元漁船員の血液中の染色体異常を調べる広島大の研究グループに協力。今年6月、担当した環境科学技術研究所(青森県六ケ所村)の田中公夫元生物影響研究部長(放射線医学)から、被ばくの痕跡が見つかったと伝えられた。「今更知らされても遅すぎる」と憤った。

室戸市の「第五海福丸」に乗っていた川崎啓作さん(81)=室戸市=も同じ調査で被ばくが裏付受けられた。六十年前、何らかの検査を受けたが、詳しい結果は知らされなかった。

「当時あそこにいた船が被ばくしていたのは明らか。国がすみやかに開示し、健康調査していれば長生き出来た人もいたのではないか」と悔しそうだった。


 国の責任ただす 
 第五福竜丸の元乗組員大石又七さん(80)の話 
 国はビキニ事件を早く終わらせたいという姿勢だと思っていたので、文書の公開はないとあきらめていた。何も分からず亡くなった元乗組員の仲間たちに、どう責任を果たすつもりなのか。東京電力福島第一原発事故が起きて、放射能の問題は現在も続いている。今回の公開を機に、あらためて国の責任をただしたい。


<ビキニ事件> 
1954年3月1日、米国が太平洋・マーシャル諸島ビキニ環礁で水爆実験「ブラボー」を実施した。爆発力は広島型原爆の約1000発分の15メガトンで、放射性物質の「死の灰」が広範囲に降り注いだ。静岡県焼津市のマグロ漁船、第五福竜丸の乗組員23人が被ばくし、半年後に久保山愛吉さん=当時(40)=が死亡。汚染されたマグロの廃棄が相次ぎ、反核世論が高まるきっかけになった。55年1月、米が日本に見舞金200万ドル(当時のレートで約7億2000万円)を支払うことで政治決着した。


■ ■ ■ ■

コメント:
■ 政府関連の調査報告書には「部内限」というカテゴリーがある。相当の資金と時間をかけて調べた事例でも、この部内限と印刷された報告書は、一部の関係者以外の手に渡ることがない。執筆者側から言えば、陽の目を見なかったということになるが、これは、それだけでは済まされない、犯罪的行為なのである。私も、そのような調査に携わったことがあるが、これは変だと思った。ともに調査に携わった仲間もそのことに何の意見も異議も挟まないのは、もっと変だと思ったのである。

誰がこの部内限の決定をするかというと、個々の調査依頼を出す下っ端の役人である。調査のためにかなりの税金が投入される、しかしその結果が、役人の意に沿った形で利用可能ではないと考えると部内限の指定をするのである。これで、一般国民の眼の届かないところに隠されてしまう。

行政が行った調査の情報は、国民のものであるはずだ。役人が国民に知らせる知らせないの判断をする権利は、本来ないはずである。しかし、ここでよく使われるレトリックが「国家の安全」、「社会の平穏」を乱さないためという理屈である。これは、明治以前の階級社会における「上意下達」の思考様式からくるもので、いまでは、病的とも言えるおごりであろう。

これは、民主主義とは全く相容れないシステムだ。「この国は、自分たちのものだ」と私達が思うのであれば、絶対にこのシステムに飼いならされてはいけない。だが、これならまだいいほうかもしれない。現実には、公共性のかけらも感じられな事態が大手を振ってまかり通っているようで、「省益」が判断の尺度だったり、役人の個人的得失が尺度だったりする。

■ 現行の「秘密保護法」は極めて危険だ。日本はスパイ天国だから国家機密を守るより厳しい法律は必要だという宣伝は、デマである。外交・軍事の案件に関して確かに外国のスパイ活動もある。そのためにはすでに「スパイ防止法」なるものが存在する。それで十分なはずだし、もし不備があるのなら、この法律を修正すべきだ。

上記の東京新聞の記事のうち、柏崎智子記者の指摘した次の件を注目してほしい。
”これまで、高知県などが資料開示や調査を要請してきたが、国は「資料はない」「因果関係の証明は困難」と繰り返してきた。しかし昨年(2013)十一月、外務省が一部報道機関に対し、旧厚生省がまとめた資料の一部を開示。国内向けには「ない」としながら、米国に渡していたことも明らかになった。”

またよく知られていることだが、2011年福島原発事故の折、SPEEDI気象庁管轄)の放射性物質の風向による拡散情報を意図的に隠して、現実的に、福島住民の被ばくを助長した。このSPEEDIデータも、米国にはいち早く提供したと言われている。つまり、官僚の行動は、重要な情報は外国には勝手に提供するが、国民には必要な時には絶対知らせないということである。何がスパイ防止なのか、官僚が恣意的に貴重な情報をスパイよろしく外国に渡しているのが現実ではないか。「秘密保護法」がこのようなことに利用されたらたまらないのだが、その可能性は大きい。スパイ防止どころか、国民の立場から見れば「売国法」になりかねない。

次に、秘密保護法は歪んだ罰則規定を持っており、これが最大の問題だろう。当然、国家権力の実働部隊である警察・検察にその担当部署が設けられるに違いない、「xxx特捜部」などという形で。この部署が増長して、かつての(天皇の親衛隊)とよばれた「特高警察」のような挙動に出る可能性は大いにある。この事態を許さないように、監視の眼を強める必要が絶対にある。

だが日本はまだ、自由にものが言える国だ。議会を通して、「秘密保護法」を廃止していく道も残されている。その際は、本法担当大臣だった森まさこ議員(福島県選出国会議員)と安倍首相の責任追及をすべきだと思う。行政責任の瑕疵(市民にとっての)は刑法犯罪として追及すべきだ。そのことが、民主主義の絶対条件ではないだろうか、いわゆる法律専門家がどう言おうと。さもなければ、2.11などの「暗殺」を避ける事ができないのではないか。

私達は、過度に悲観したり、あきらめる必要はない。しかし、市民が政治に無関心になったり、権力に対して萎縮してしまうと、いつか来た道に日本社会が入り込んでしまうかもしれない。現状では既成マスコミに「社会の木鐸」の役割を期待できない以上、いま、私達一人ひとりの「民主主義力」が試されているといえよう。(紺屋)









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