嗅ぎ煙草(snuff)

■私は、太古の昔から「愛煙家」である。愛煙家というこのことばが好きだ。スペイン語では、普通の喫煙家のことをfumador といい、いささか度をこしたタバコ愛好者をtabaquistaという。私は後者の範疇に属するようだ。

とくにニコチン中毒と言うわけではない。なぜならば、近年は飛行機による海外旅行では12−15時間は喫煙を制限されるようになっている。知り合いの中には、それは耐えられないという喫煙家が結構いるが、私はほとんどそれを意に介さないのである。南米に旅行するときなど、ときには、飛行機の乗り継ぎで、お仕着せホテルに宿泊を余儀なくされることもある。そうゆうところは全館禁煙というところが往々にしてあるので、2−3日タバコから遮断されることも何度かあった。だが、身体的、精神的に変調をきたしたことはない。このような次第なので、タバコを辞める気などまったくないのだが、生死に関わることでも起これば、何時でも喫煙をやめるだろうと思っている。それはそれとして、なによりも、タバコはうまいし、優雅だし、脳と気分を開放してくれる極めてポジティブなものだということを言い立てたい。もちろん麻薬の一種だ。薬効成分と麻薬成分とは同義だ。

■ここで、タバコ礼賛を一つぶち上げておこう。お茶、コーヒーは旧大陸あるいは北アフリカが原産地だろう。したがって、現在のような広がりは初めからあろうはずはないが、この2つの趣向植物についていえば、太古の昔から地域ごとの嗜みの文化が存在してきた。一方、煙草とカカオは新大陸が原産地である。南北アメリカ大陸の中では、人間史のはじめからかかなりの広がりを見せていたようだ。しかし、これは日常嗜む趣向品とは意味合いが異なるものであったようで、宗教的な儀礼に欠かせないアイテムとして受け継がれてきたらしい。カカオについてはもう一つ別の役割があったようだが、今はそれは問わないことにする。この2つの植物が世界的に拡散していったのは、コロンブスから始まる西洋人の大航海活動によっている。あっという間に世界の隅々まで広がっていったように感じられる。カカオの方は西欧の貴族趣味に合致しただけであまり広がりを見せなかったが、煙草の拡散力には目をみはるものがある。

世界的に広がった煙草であるが、その喫煙は、単なる趣味を超えて、あらたに生活に根ざしたものになってゆき、単なる趣向品にはとどまらないものとして定着したのである。このように近世以降では在るが、喫煙ははるかの昔から文化の一部に組み込まれてきたことを想起する必要があろう。かつて西洋映画が隆盛を極めていた頃、紙巻たばこを粋に吸う情景に憧れたなどという話をよく聞いた。しかし私個人についていえば、そうゆう考えや趣向はまったくなかった。

私にとって、タバコが生活に密着し、礼儀作法の一部になっている情景として、江戸、明治期の座敷風景がある。部屋の隅には、煙草盆と称するキセル、刻みたばこ入れ、灰皿を一体にした小さい家具が、必ずあった。それが個人の家であれば、客人が来たとき、先ず煙草盆をすすめる、もちろん、お茶を出すより先である。また、それが旅館などであれば、泊り客は一息入れた後、各部屋に備え付けの煙草盆に手をのばすのである。確かに、喫煙が本邦に広がったのは近世以降である。しかしビール、洋酒、ぶどう酒などの酒類が飲まれるよりはるか以前から、タバコは嗜まれているのである。日本人の生活にこれが定着するのに、十分すぎるほどの時間がすでに経過しているのである。さらに言えば、タバコは、酒などより遥かに上等の趣向品なのだ。

そうであるから、喫煙と健康害をいくら禁煙活動家が言いたてても、私はほとんど聞く耳を持たないのである。もとより、タバコの害なるものは、問題設定自身が間違っているものが多い。現下のような禁煙キャンペーンがいつまでも続くと、将来に大きな禍根を残すことになるだろう。この指摘は、科学者・武田邦彦氏が何度も繰り返していることである。喫煙の害なるものは、もとより、自動車排気ガスの害をごまかすための世界的キャンペーンであったことは周知の事実である。この論争点は、いずれ収束に向かうだろうと思われる、ドイツ、イギリスで2040年以降ガソリン車の販売禁止が取り沙汰される昨今である。

喫煙と健康害なる宣伝は、データ解析が誤謬に満ちているだけでなく、病的でさえある。個人の楽しみを手練手管で圧殺し、そこから征服感を味わおうとするものとしか思えない。もとより健康志向=禁煙キャンペーンは、ヒットラーの性向であったのでありナチスの運動から始まっていることを、まずもって我々は想起する必要があろう。今ここで,その点を詳しくは論じないが、下記の参考文献を参照することをすすめる。


■タバコのたしなみ方は、多くの場合は煙によるので喫煙などという。この喫煙タバコの中にも、色々なカテゴリーがある。葉巻たばこ、紙巻きたばこ、パイプたばこが、その代表であろうが、個人的な趣向で言えば、葉巻が最高であり、二番目は種類と味のバラエティーが豊富なパイプたばこ、三番目が喫煙に便利な紙巻きということになる。いずれにせよ、喫煙は、煙を吸い込むので気管と肺でたしなむように見えるが、煙の半分は鼻とその粘膜からその成分を吸収しているように思う。つまり、喫煙の半分は、嗅ぎたばこと似たたしなみ方をとっているということだ。


さて、喫煙以外のたばこのたしなみ方に、嗅ぎたばこと噛みたばこがある。私は、このどちらも経験したことがない。しかし想像するに、噛みたばこは口の中で煙草葉を咀嚼して成分を飲み込むのだろうから、ちょって僕の体は受け付けない気がする。一方、嗅ぎたばこは、粉末を鼻から吸引するのだから、喫煙煙草の場合も一部これを行っているはずである。さらに、即効性をねらった医薬品あるいは麻薬などで、粉末を鼻から吸引するやり方が行われている。しかし、嗅ぎたばこを常用するとなると、必ずしも美しい吸引法ともいえないようだ。


ここで、何度も話題に出しているロブサン・サンボウが語る嗅ぎタバコの話を聞こう。
ロブサン・サンボーを名乗って中央アジアに潜行を敢行した西川一三氏の、その潜行の初期段階は、内モンゴルから回族地区を回っていた。そして、彼の最初のストップ基地は、回族地区にあるラマ教寺の「バロン廟」であった。そこに彼はかなりの期間逗留するのだが、単なる居候を決め込むこともできず、いろいろな小間使いをせざるを得なかった。そのうちの一つに、ラマ僧たちのための嗅ぎタバコ作りがあった。

 
...嗅ぎタバコ作りもなにしろ初めてのことで苦労したものである。煙草の葉はほとんど青海省産のものであったが、ときにはインドから輸入されたのもあった。

まず煙草の葉を火の上で焙り乾かす。この焙り方にもいろいろコツがあり、その加減により匂いの良し悪しができる。乾かした葉は板のように平らな石版の上に置き、その葉を丸い石で何回となく摺り、散らばった葉をカラスの羽で中央に集めては摺り、粉状になるまでくり返す。それを目の小さい金網のフルイにかけ、その粉に灰をまぜてまた摺って、粉と灰がよく混合したあと再びフルイにかけ、はじめて嗅ぎタバコが出来上がるのである。

調合される灰は一般に木の灰が用いられるが、檜の葉の灰を最上とする。その灰をフルイにかけて雑物を取り除き、水でこねて灰団子とし、天日に干し、乾いた灰団子を火の中にいれて焼き、真っ白い立派な灰ができるのである。煙草の粉と灰の量が嗅ぎタバコの味に関係するが、だいたい煙草の粉二に対して灰が三の割合である。ときには灰の他に少量の仁丹、みかんのへた、樟脳などを混入してこすり、香りを良くする場合もある。

できあがった嗅ぎ煙草は「ククール」と呼ばれる入れ物に入れるが、これはマロウ、陶器、セルロイド、木など様々な材料でつくられている。ククールの栓にとりつけられた耳かきのような匙ですくい、左手の親指の爪の上に取り、それを一方の鼻の穴に持ってゆき、スウーと吸い込んで嗅ぐ。初めての者は吸い込んだ瞬間くしゃみがでる。目からは涙がでるが、なれると頭が冴え、眠気を防ぐものである。

しかし、なにしろ粉をそのまま吸い込むので、鼻の穴はきいろのはなと、はなくそで物凄く汚く、彼らは吸う前、手鼻かナブチと呼ぶハンカチ代用の布を常に懐にしていて、はなをかんでは吸っている。そのナブチは洗濯をしないため、硫黄のようなはなくそが固まってこびりつき、まったくぞっとするしろ物だが、彼らはいっこう平気で、ナブチをもみ合わせ、乾いたはなくそを落としては、はなをかみ、それをくり返しているのである。

「ロブサン、今度の調合は非常に好い。煙草の風味が変わってきた。この調子で.....」
とお世辞を言われれば悪い気はしない。おかげで嗅ぎタバコ作りの腕も一人前となった。

西川一三「秘境西域八年の潜行」上(中公文庫)236-237より



■ 参考文献:

  • 『愛煙家通信」:堤 堯 による記事「ヒトラーはタバコを吸わない」

http://aienka.sakura.ne.jp/articles/025/

  • 同上:西部 邁による記事「煙草は死んでも指先から離すな」

http://aienka.sakura.ne.jp/articles/007/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%AE%E5%8F%8D%E3%82%BF%E3%83%90%E3%82%B3%E9%81%8B%E5%8B%95

  • 武田邦彦★過度な禁煙運動とヒトラー独裁の関係性!なぜ日本は暗い空気に覆われているのか?未成年の喫煙女性の多くは◯◯である!

https://www.youtube.com/watch?v=FEXV9rIq5Dc


ナチス時代のドイツに於ける禁煙ポスター

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