要石の比国をブルーチームに引き留ることができるか?

 

四月19日(月)の産経新聞一面トップに、「自衛隊装備、比に供与-対中包囲の協力強化」という文字が踊った。数日前、菅首相が訪米して米大統領(バイデン)と会見し、共同声明でCCPを名指しで海洋領土侵略姿勢を批判したことが世界の耳目を引いた。そのことに呼応した記事だと思われる。

 

そもそも比国は、西欧人の植民地支配によってその国民性が大きく傷ついた国である。スペイン植民地から騙し討ちによる米国植民地ヘくら替えをさせられた経緯を持つ。とりわけ米国によって骨の髄まで人間としての誇りを粉砕されたのだった。その間、いわば奴隷根性を叩き込まれたと言ってよい。もとよりカトリック的というか前向きな国民性をそなえているはずだが、米国支配は現在に至るまで尾を引いている。日本も植民地支配に加わったと比国人はいう。しかし、日本の支配は、米国とはまったく異質であった。むしろ、戦後の日本は、比国同様、米国によって国民性を大きく毀損された国のカテゴリーに入る。

 

ところで現下の国際政治状況は、CCPの領土領海の拡張主義によって翻弄されている。とりわけ、東アジアの情勢は極めて厳しい。「第一列島線」を指標とする領海拡張計画に沿って、レッド組とブルー組が対峙している構図であり、ブルーチームにとってその戦線の要石が比国なのだ。

 

記事の内容は、フィリッピンへの自衛隊装備品(災害救助機材)をODAの形で無償援助するというものであるが、いくつかある関連記事の思惑が、ルテルテ大統領が心変わりをしそうだ、そのため米の後押しで日本が援助しなければというものだ。そう願いたいところだけれど、そうなるだろうか疑問が残る。フィリッピンという国を歴史的に紐解き、その国民性が知れば簡単ではないことはみえてくる。

 

くだんの産経の記事は以下のようなものである。

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対中の要衝、フィリピンへの支援加速 ODAで自衛隊装備供与

2021.4.18 21:36 

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 政府がフィリピン軍に政府開発援助(ODA)で、災害時の人命救助に必要な資機材がまとめられた自衛隊の人命救助システムの供与を始めた。ODAと防衛装備移転に加え、他国軍の能力を高める能力構築支援は中国の「力による現状変更」を押し返す方策として期待される。フィリピンは南シナ海での中国の威圧的な動向に反発を強めており、対中包囲網構築のモデルケースとなり得る。

 「ODA、能力構築、防衛装備協力など支援メニューを組み合わせ、ASEAN東南アジア諸国連合)を支援していく」。平成26年5月、シンガポールでのアジア安保会議で当時の安倍晋三首相が掲げた支援メニューが3点セットだ。

 翌27年、旧ODA大綱の名称を変更して開発協力大綱を策定。旧大綱のもとでタブー視されていたODAでの他国軍支援について、「民生目的、災害救助など非軍事目的の開発協力」には支援を行えるという目的と原則を明示した。

 先行して24年度に始めた能力構築支援は東南アジアを中心に15カ国に上り、比軍には26年度から一昨年度まで毎年度、幅広い分野で実施している。今年3月には初めてパプアニューギニア軍の人道支援・災害救援能力の向上でオンライン教育を行い、3年計画で建設機械整備の技能を高める。

 フィリピンとパプアニューギニアは日米にとって対中の要衝だ。中国は台湾海峡などでの有事の際、九州-台湾-フィリピンを結ぶ第1列島線の西側を支配下に置き、小笠原諸島-グアム-パプアニューギニアを結ぶ第2列島線より西側に米軍の空母を近づけないことを想定しているためだ。

 政府高官は「経済支援を目当てにフィリピンやパプアニューギニアが中国になびき、中国の軍事拠点を構築させることは阻止する」と指摘。そのための主要な方策が能力構築支援だ。

 自衛隊幹部は日本の能力構築支援の原則を「相手のニーズに沿い、丁寧に、息長く」と指摘し、さらなる拡大と深化を目指す。

 ODAと装備移転でモノを渡せば使い方や整備の教育が欠かせず、おのずと能力構築支援の機会が拡大する。比軍に輸出するレーダーのような警戒監視装備は能力構築支援を通じて情報共有をできる関係に深化させられる可能性を高め、情報共有が実現すれば日本と台湾の防衛にも資する。

 インドネシアには海洋に関する国際法の講義も行っている。これは東・南シナ海での中国の独善的な振る舞いに異を唱えるルールと価値観の共有につながる。

 一方、中国の能力構築支援はどうか。防衛省シンクタンク防衛研究所」米欧ロシア研究室の飯田将史室長は平成27年に報告をまとめ、病院船による医療支援などの例を挙げ、「中国軍の国際的な評価向上が目標」「支援を受ける国の能力向上は成果を生んでいない」と結論づけている。

 中国は現状では能力構築支援を重視していない。東南アジア諸国と共同演習などで表面的に友好関係を維持しつつ、「南シナ海の実効支配を強め、実を取ろうとしている」(飯田氏)。

 中国の姿勢と対比すると、日本の3点セットに秘められた深謀遠慮が鮮明になる。(半沢尚久)

 

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