北国の放射能温泉訪問記:「玉川温泉」にまつわるエピソード(2)


玉川温泉に到着
玉川温泉の宿は、県道341を登ってゆき、「森吉山登山口」という小さな立て看板が見れる場所をもう少し登ったところで県道を逸れる、そして渋黒沢を下って行ったところにある。そこは、湯煙で視界がかすむ谷底である。宿のたたずまいは、視覚的には、華やいだ雰囲気は全くなく、黒っぽく暗い。ここは、華やいだ雰囲気を必要としない。なぜならば、完全に医療としての湯治場、それも多くはガン患者が駆け付ける湯治場にその機能を特化しているからである。骨やすめの保養所あるいは軽めの湯治宿は、もうひとつ別に、ここよりちょっと下った所に「新玉川温泉」、「ブナの森玉川温泉湯治館そよ風」という名で存在する。


玉川温泉宿. 2009 photo by mr.matsu写真3]

[出迎えはやはり、なまはげ。首を切り落とされないといいが…写真4]

この玉川温泉は、かなりの特異性を持つ温泉水の原泉に最も近いところにある。下流域にある温泉宿はここからパイプで原泉を引き入れているのだと思われる。というのは、この玉川温泉宿をちょっと下ったとろろに、玉川酸性水中和処理施設があり、強酸性の温泉水がここより下流域の自然環境に流れ込まないよう処理が施されているからである。つまり、下流域の温泉では、川から源泉を取ることができない。

この温泉は、投宿者以外に、自家用車を使った外来者も多くやってくる。彼等は、きまってゴザを持参してくる。「岩盤浴」と呼ばれる、熱風の噴出孔近くの岩の上でゴザを引いで寝転がるのである。原泉水は極端に高温なので、直接入浴することは当然できない。そこで、岩の上で「入浴」というわけである。近くに硫黄を含んだ熱風の吹きだし口がいくつもあり、周辺の岩はかなり熱い。はたしてこの「岩盤浴」にどれだけの効果があるか分からないが、以前から地元の人はこれを好んでやっていたようだ。昨年、この「岩盤浴」で、焼死者が出たという。しばらく禁止されていたが、ごく最近再開されのだという。

源泉は、森吉山と八幡平の間にあるちょっと低い火山「焼山」(しょうざん)から湧き出ている。焼山は、山頂のカルデラから煙は現在出ていない。その代り、麓の玉川温泉周辺で多量の熱水と熱風を吹き出しているのだ。いつ頃からここに温泉が湧いているのか詳しくは分からないが、歴史時代に入った頃には、当然温泉は出ていたであろう。温泉水は、古くは「玉川毒水」と呼ばれ、そのように認識されていた。この点は後で詳しく見ていくが、高熱、強酸性、さらにかなり高い空間線量の放射線を出す。原泉の噴き上げ口[「大噴」]には、次のような説明書きが掲示してある。

目の前の源泉は大噴と呼ばれ、温度98度C、PH1.2ほどの日本一の強酸性水が多量(毎分8,400lほど)に湧き出しています。この温泉水は、塩酸を主成分としているのも大きな特徴です。
また、下流の玉川は、大噴の強酸性水流入で酸性が強く「玉川毒水」と呼ばれています。

環境庁 秋田県

話は前後するが、玉川温泉宿から、原泉の噴き上げ口[「大噴」]ならびに熱風噴出口までは、ちょっと離れている。宿舎に下ってくる途中でそこに入っていく道があり、原泉噴き上げ口にも熱風噴出口にも歩いていけるし、通路はよく整備されている。その通路の名前がちょっと変だ、題して「自然研究路」。噴出口のすぐ近くまで、通路が引き込んであり、熱風噴出孔近くでは、近づき過ぎると、大やけどをしそうになるし、顔が硫黄でまっ黄色に染まるのではないかとさえ懸念される。外来者は主にここにやってきて、「岩盤浴」を行う。投宿者も、昼間はゴザを抱えてここにやってくるようだ。


[「自然研究路」よく整備されている。写真の突き当たりが「大噴」、その左側の一帯が岩盤浴の場所である。写真5]

[「大噴」吹上げ口はそれほど大きくはない。この底に「北投石」があるらしい。写真6]



玉川源泉の特性1 強酸性温泉
盛岡市在住の医学博士兼開業医の杉江忠之助氏が、「玉川温泉―湯治の手びき」(足沢三之介監修、玉川温泉研究会発行、1986)という本を書いている。表題とは裏腹に、医者が書いたものだけあって、なかなか硬派の本だ。この本を手引きにして、玉川温泉鉱泉としての特徴をつかんでいこう。

まず強酸性泉という特徴について。杉江氏の本から引用すると玉川温泉の酸成分は次の表のようになる。

表からわかるように(ただし、酸成分の単位が不明)、酸の実態は塩酸+硫酸=3.6415であるが、塩酸の方がほぼ1.5倍多い。屋内温泉は、源泉100%と50%の浴槽に分けれれている。私は、もっぱら50%希釈浴槽に入ったが、3-5分の入浴を2回繰り返すと、やはり肌がぬるぬるした感じがした。したがって、玉川温泉は殺菌効果が強く、皮膚病に効果を発揮するということになる。杉江氏は、次のように述べている。

「当温泉の特色から見ても解るように、各種細菌類に対し、強力な殺菌性のあることは、当然かんがえられるところであり、事実、化膿菌は五分間で、大腸菌は源泉で五分、十倍希釈でも二十分間で死滅している。その他水虫を起こす白せん菌などに対しても、強力な殺菌、発育阻止効果のあることが判明している。
このように、当温泉は多人数入浴する浴槽内でもほとんど菌が死んでしまい、無菌の状態であることがわかっている。」(前掲書7−9頁)

この強酸性泉であることが、各種皮膚病に効果をもたらすということは、物理的特性として理解可能である。もちろん、逆の効果も含んでいるはずで、いちがいに治療効果だけを強調するのは問題を残すかもしれない。しかし、次に触れる放射能のことを置くとして、当温泉がリウマチ、脳性小児麻痺、血液疾患、免疫力一般、肝臓疾患、等に治療効果があると述べている。確かに、それを実証すべく当温泉で動物実験、湯治者への問診などのデータを積み重ねた上で、杉江氏は力説されている。しかし、言ってみれば、それれはすべて、統計学的データであり、物理的つまりここでは生理学的な理論を使って力説しているわけではないと言わざるを得ない。

しかし、ほとんどの温泉効能というのは、このようなものだと思われる。杉江氏の場合も、たぶん同様であろう。つまり、それを理論的にいえば、ワクチンの免疫効果、つまり弱刺激に対して免疫力の活性化理論となり、これを一般的には背後で前提しているのである。しかし、これもある意味では、経験的にのみ確認されている事柄を仮説化したものであろう。これは、一般には「ホルミシス効果」と呼ばれている。この20年の間に、DNA解析学が飛躍的に発展した、もうすでこの理論が遺伝子レベルまで遡及し解析されているのか、まだ未着手なのか、私は知らない。「ホルミシス効果」については、放射能ホルミシス効果のところで再び触れることにしよう。



つづく






/*