「インド太平洋」で抑止を強めよ   


ヴァンダービルト大学名誉教授 ジェームス・E・アワー氏(寺河内美奈撮影)

中国こそ中長期にわたる深刻な懸念だ
 安倍晋三首相の決断による10月の衆院総選挙と、ドナルド・トランプ米大統領の11月のアジア訪問が成功であったかどうかはさておき、私の見るところでは、多くの日本人や米国人にとって、北朝鮮の核ミサイル問題は無視できない最も差し迫った脅威である。しかし、中国こそ中長期にわたってより深刻な懸念であり、日米両国は慎重に抑止戦略を実行しなければならない。
 インド太平洋地域という言葉の発端は明確でないが、安倍首相は2007年に日本、インド、オーストラリア、米国から成る戦略的ダイヤモンドの重要さを説いた。それは中国の習近平国家主席が13年に公表した一帯一路(OBOR)構想よりも、ずっと以前のことであった。安倍首相によるこの概念は突如、トランプ大統領やその他の要人らの発言によって活気を帯びてきた。
 日本のメディアで安倍首相に批判的な人々は、首相を右翼だとか日本軍国化の支持者などとレッテルを貼る。しかし、穏健な日本国民は4回の選挙を通じて、安倍首相率いる自民党に票を投じ政権を持続させている。そして、国内の一般大衆や、国外の穏健な民主主義支持者も、安倍首相が表明している安全保障と通商政策に安心感を抱いている。
 安倍首相は日本の軍国化を望んでいる、と非難するのはまったくの言い掛かりにすぎない。報道や国会などで、安倍首相は森友・加計問題について「傲慢だ」とひどい批判を受けた。しかし、首相の外交政策における重要な見解と比較すれば、それは大したことではない。

≪日米に明確な戦略はあるのか≫
 北朝鮮が06年に最初の核実験を行う前、安倍首相は北朝鮮のテロについて意見を語った。その中で1970年代の北朝鮮による日本国民の拉致事件を強く非難した。地図を見れば、なぜ今日、日本や韓国が北朝鮮を警戒しながら暮らすのかが分かる。
 米国もその懸念を共有し、トランプ大統領は日本の拉致問題の解決に取り組むことを、国連での演説で力強く訴えた。トランプ大統領の安倍首相に対する敬意なくしては、ありえなかったことであろう。
 日米は北朝鮮の非核化を求めて団結している。北朝鮮に対して軍事力を行使しなければならない場合、安倍首相もトランプ大統領もその結果は悲惨なものになることを理解している。
 北朝鮮核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイルICBM)を開発するより前に、トランプ大統領北朝鮮の非核化に向けて、あらゆる必要な手段を行使しなければならないことを、安倍首相は承知している。
 安倍首相とトランプ大統領の共通する見方はこうだ。中国が制裁を強めなければ北朝鮮は生き延びる。中国が何らかの理由があって制裁を強化することを恐れているとはいえ、日米は北朝鮮との戦争を避けることと引き換えに、中国に(北朝鮮への)圧力を強めるよう効果的な説得をしなければならない。
 一方、東シナ海南シナ海を支配し、その覇権を南アジアやインド洋にまで拡大しようという中国にどう対処するかということは、さらに難しい問題である。日本も米国も中国の不法な侵犯行為を防ぎたいが、今もってそれに対する明確な戦略はない。
 北朝鮮の場合においてと同様、中国の人民解放軍に対する米軍の力は、日本の力よりもより強力だ。日本は力強く正々堂々と意見を述べて、米海軍力をさらに強力にするように働きかけ、日本自身の防衛力を高める努力をすることを約束する必要がある。

≪首相は4カ国連携の推進者に≫
 もし日米が軍事的な課題に取り組むなら、「中国は前途有望な将来の大国であり、日米はそれに後れを取る」という中国の宣伝活動に対して反撃できるし、そのような日米の行動は東南アジア諸国連合ASEAN)各国やインドに歓迎されるだろう。
 オバマ前大統領は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を支持したが、安倍首相ほどには熱心に推進しなかった。米国がTPPから離脱した現在、安倍首相はこの構想を存続させようと必死の努力をしてきた。もしそれが成功すれば、いずれ米国にも(参加を)促すことになるだろう。
 正直に言って、安倍首相はすぐにも正式な(日米豪印)4カ国連携やインド太平洋地域同盟ができるとは考えていないと思う。戦略的ダイヤモンドを形成する4カ国は、中国との友好関係が必要である。その中国においても、習近平国家主席は深刻な経済や人口問題、まったく異なった価値観をもって不規則に広がる国の秩序を維持しなければならない。
 自由で開かれたインド太平洋地域を発展させる戦略は、日米豪印やASEAN各国の政府、国民から強く支持されるだろうと私は思う。安倍首相は18年にはその戦略の推進者として出現するだろうか。


産経新聞コラム【正論】2017.12.8 10:30
■ 当記事の西文訳は下記のページを参照のこと:
http://d.hatena.ne.jp/kobayaciy/20171209/1512810018

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