「第一列島線」のキーストンは崩れるか?

はじめに
毛沢東総書記が権力を握っていた1970年代、中国共産党軍の秘密戦略研究として「第一列島線」・「第二列島線」なるものが考案されていたという。それが、80年台になると外部にチョロチョロと漏れ始めたのだが、それを誰も真面目に相手にせず笑い飛ばしていた。しかし90年代前半には、早くも今日の対立構造を予測し警告を発するものもいた。後半になると、このキーワードは中国の太平洋進出戦略としてはっきりと表舞台に出るようになった。

2000年台になると、中国は着々とその太平洋進出戦略を実行に移し始めた。まず「第一列島線」内の軍事的領海化であった。しかし、世界は地域によってそれへの反応はまちまちだった。早くから南シナ海の領有問題で軍事的緊張の中にあった東南アジアの国々は、危機感を強めていた。一方、先進国である日米は、東シナ海の問題が懸念されていたが反応は今ひとつ鈍かった。急速な対立状況をもたらしたのは、中国からであった。それは、2011年3月の東北大震災の日本国内の混乱の虚を突いた尖閣諸島への急接近であった。それ以来、東シナ海南シナ海と変わらない緊張の地域になっていった。

2010年台の中ほどになると、東アジアでの政治的主役は揃ってきた。まず中国では、「一帯一路」戦略を引っさげて習近平が永久政権の確立の狼煙を上げた。、日本では安倍晋三首相の長期政権が対中国路線にはっきりかじを切った。さらに2017年には米国でトランプ政権が誕生して、対中国経済戦争を開始した。この今日の状況は、第二次世界大戦前の1941年のあの緊張状態に酷似してきた。

もっとも、東アジアの国際政治状況は、まだ対中国にベクトルが収斂しきれていない。それは、北朝鮮の核開発と日本・ロシアとの領土問題という付属課題が噴出してきたからであり、日米は二正面戦略を強いられているのである。この二正面路線を一正面路線に修正できたときに、衝突は顕在化するであろう。

また、中国サイドは、すでに「第二列島線」内部の内海化にむけて攻勢を開始している。ここに至って、先進国側は、安倍の「インド・太平洋戦略」に沿って対中国包囲網を急速に構築しつつある。懸念されている軍事的アンバランスの是正--真実はわからないが中国が先に進んでいると言われる--、これに取り組みつつあるのだ。

下にあげる記事は、本日と明日(11月20・21日)に明白になる中国とフィリッピンの新たな関係構築に関するものである。これが、中国の思惑通りに進むと、第一列島線内での中国による内海化へ対抗する勢力のキーストーンが崩壊するかもしれない出来事になるだろう。




南シナ海「規範」で米排除狙う 
習近平氏、フィリピン取り込みへ訪問 
2018.11.19 産経新聞(国際面)


APEC会場で撮影のために手を振るフィリピンのドゥテルテ大統領(左)と中国の習近平国家主席=18日、パプアニューギニアポートモレスビー(AP)


 【北京=西見由章】中国の習近平国家主席は20〜21日、フィリピンを公式訪問する。中国はシンガポールで開催された東南アジア諸国連合ASEAN)関連首脳会議で、李克強首相が南シナ海の紛争回避に向けた「行動規範」(COC)を3年以内に策定する方針を示したばかり。ASEANで中国との調整国を務めるフィリピンを取り込み、作成協議の主導権をにぎって米国の影響力排除を図る構えだ。

 「南シナ海は今、彼ら(中国)の手中にある。なぜ衝突を生み出す必要があるのか」。ASEAN関連会議最終日の15日、フィリピンのドゥテルテ大統領は記者団に対し、南シナ海問題は中国とASEANの話し合いによって解決すべきだとの考えを示した。前日には、米海軍の原子力空母打撃群によるフィリピン海での作戦行動が発表されており、米国を牽制する意図があったのは明らかだ。「戦争が起これば最初に損害を受けるのはわが国だ」。

李(克強)氏が、「COC --南シナ海の紛争回避に向けて中国とASEANが進めている<行動規範>-- の3年内の交渉完了」を打ち出したのは、フィリッピンが中国との調整国を担当する2021年までに有利な結論を導くためだ。北京の大学教授は3年内のCOC策定方針について「中国の現指導部とドゥテルテ大統領の任期が22年までということも背景にある」とした上で「米国の圧力が強まり、策定作業の加速を促している」と指摘する。

習氏は訪問先のフィリピンでドゥテルテ氏と首脳会談を行い、南シナ海問題やインフラ開発支援などをめぐる共同声明を発表する見通しだ。ドゥテルテ氏は中国メデアに対して、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の枠組みで両国が協力を深め、より多くのインフラ構想を実況に移すことへの期待感を表明。その上で「南シナ海問題は有効的な態度で臨み、対話を通じた解決を望む」と語った。フィリピン側も中国と領有権を争うスカボロー環礁などを諦めた訳ではない。米中対立に巻き込まれないよう注意を払いつつ、中国のメンツえお立てて最大限の経済支援を引き出したいのが本音だ。●



(続 報)
習近平氏、旧知の人脈駆使しフィリピン取り込み
2018.11.21 (産経ニュース)

 【シンガポール=吉村英輝】中国の習近平国家主席は21日、公式訪問先のフィリピンで、元大統領のアロヨ下院議長らと会談した。アロヨ氏は、歴代の大統領経験者の中でも中国寄りとされ、ドゥテルテ大統領の「盟友」として、南シナ海問題でも対中融和路線を担ってきた。中国はこうした旧知の“人脈”も駆使し、フィリピンの取り込みを強化する姿勢を見せた。

 会談で習氏は、アロヨ氏を前に「古き良き友人」と呼びかけ、両国関係への貢献に感謝し、さらなる関係発展への期待を表明した。

 アロヨ氏は、大統領時代に胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(当時)へ南シナ海の領有権主張棚上げを持ちかけ、2005年にベトナムも巻き込んだ共同資源探査で合意した。

 だが、中国は12年、フィリピンの排他的経済水域EEZ)にあるスカボロー礁(中国名・黄岩島)の実効支配を強行。後継のアキノ前大統領が反発し、南シナ海の資源探査活動を停止した経緯がある。

 習氏は20日、ドゥテルテ氏と、インフラ整備を中心に29件の覚書に合意したが内容は非公表。「石油・ガス開発の協力」で、クシ・エネルギー相は、対象を南シナ海と認めたものの、具体的な場所や今後の法的措置への言及を避けた。

 アロヨ氏は、10年の下院議員転身後、大統領在任中の選挙法違反や汚職で逮捕された。同氏周辺には中国企業からの収賄疑惑がつきまとうが、ドゥテルテ政権となった16年に約4年ぶりに釈放された。その後、公式訪中するなどし、今年7月に下院議長に就任して復権した。

 フィリピンの安全保障問題評論家のヘイダリアン氏は、アロヨ氏を「現政権の対中政策の知恵袋で、外交政策の主要設計者の一人」とし、対中融和路線は推進されるとみている。●





参考 1
南シナ海は、正当な領海部分を除けば、中国やASEAN諸国の領有物ではない。よしんば、中国やASEAN諸国の間で話がまとまろうとも、「公海」とは彼らだけのものではないのだ。つまり、COCがどう決まろうと、米国をはじめとした諸外国を排除できる正当性は、もちろんないのである。また日本も、重要な貿易航路として自由に使用する権利があることをもっとも明言すべきである。もちろんすべての国にその権利がある。
中国の識者の中には「南シナ海は公海である」と明言する者がいる。以下の文書はそういうものの一つである。

南シナ海は公海である.pdf 直




参 考 2
日本は、では、どうゆう国防戦略を立てうるのだろうか? 以下の桜チャンネルの緊急提言は、極めてリアリスティックでかつ専守防衛を旨とする日本に合致した提言になっており、大いに参考になると思われる。

[国防緊急提言】現代軍備の劇的転換!電子戦・マイクロ波兵器で日本の得意技を生かせ!
[桜H30/11/19]




補 足:

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