米国の驚きの内部対立のウラに「移民国家」米国の本質あり


 


米国では、次期大統領の選挙を巡って大変なことになっている。日本にとって次期大統領もトランプ氏でないと都合が悪い。というか、突出してきた中共に対処しなければならない東アジアとしては、頼れる相棒はトランプ氏の米国しかないように思われる。
しかし、大統領を選ぶのは米国民である。我々には手出しができない。手出しを裏でしているのは中共ぐらいだろう。

我々には手出しができないが、米国の現在のトランプ共和党とバイデン民主党との対立、民主主義国家の精神を疑いたくなる社会丸ごとの政治的策謀の数々、これらは実に、コロナウイルスによるパンデミックと並び危機的な様相を呈している。
これらの出来事を仕組んでいる影の役者は、ディープ・ステイトだと言われる。多分そうだろう。だが、彼らが直接政治的行動に出たものではないことも確かである。彼らは、所与の状況を利用する手立てを取らざるを得ないはずだ。それはなにかといえば、「移民国家」米国が、その業として建国以来持ち続けている人種的対立であろう。

以下の、高山正之氏の「移民国家」米国の解析は、その背景を理解するのに格好のもののようだ。そして、今の姿は、そのもう一歩先に突き進んでいるようだ。

 

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「難民受け入れ」美談に潜む歴史的教訓

 マルクスは米国を「自由な植民地」と言った。「そこには広大な土地があり、移住者はだれでもその一部を自分の所有にできるからだ」とも書いている。
 それを愛知学院大教授の野村達朗がもっと分かり易く説明している。「土地が開墾し尽くされた欧州ではあぶれた農民が都市に流れて賃金労働者化していた。しかし米国では20世紀初めまで開墾が続いた。欧州人が米国に移住したのは経済的独立をしてプロレタリア化を免れるためだった」(アメリカス学会誌)」

マルクスも野村先生も大事なことを一つ見落としている。米国にはただ広大な土地が転がっていたわけではなかった。
 そこには7000万インディアンが平和に暮らしていたのだ。欧州の移住者が自分の土地を得るには女子供を含めすべてのインディアンを殺していかねばならなかった。米国は移民の国というよりヒットラーも裸足で逃げ出すホロコーストから生まれた国と言った方がいい。

 インディアンを殺しまくって西の果てに行ったらメキシコ領カリフォルニアだった。今のディズニーランドの南、カビストラノには快傑ゾロもいた。米国はそこでメキシコに戦争を吹っ掛けて領土につけ加え、そのへんに住んでいたヤキ族も殺し尽くして白人の国にした。この時点で7000万先住民はほぼ消滅し、アングロサクソン系の白人、いわゆるWASPが米国の新しい定住者となった。

 そのころになるとジャガイモ飢饉で国を捨てたアイルランド人をはじめイタリア人やユダヤ人が米国移住者の輪に加わってきた。先日、離日したキャロライン・ケネディ大使の先祖もこのとき移民船に乗ってボストンに着いている。

 定住者WASPは新参の白人たちをむしろ冷淡に扱った。嫌がらせもした。
ロサンゼルスCCは今もWASPだけを会員にするゴルフ場で、 ハリウッドで成功した白人系ユダヤ人すら入れなかった。ユダヤ人はすぐ南の丘の上に彼ら専用のゴルフ場ヒルクレストCCを作った。ここはアイルランド系のピーター・オマリーと黒人のシドニー・ポアチエと山野美容専門学校の山野正義をメンバーに入れて「我々は人種差別をしない」とアピールした。

 そんなさまざまの軋轢を経てWASPも折れた。アイリッシュも東欧人もみな米国の正式メンバーにしよう、米国は「白人定住者と移民の国だ」と言った。米国を「移民の国」というのはこの時点からで、ただ移民の人種はあくまで欧州の白人に限られていた。その他の、例えば生き残りインディアンは居留地に閉じ込め、黒人はジム・クロウ法で活動空間を区分けし、乗り合いバスも食堂も仕切りのこっちに入らせなかった。

ところが最近その棲み分けが崩れてきた。ジム・クロウ法は死文化し、ヒスパニックは国境を勝手に出入りし、移民も欧州からだけでなく中東や中国からも入ってきた。「だって米国は移民の国じゃないか」
 そこで「俺達の言う移民にお前たちは入っていない」とトランプが言った。大方の米国人がそれに賛同した。今回の大統領選の結果がそれを示している。

EUは欧州の6カ国が立ち上げた。みなもとは植民地をもって豊かにやっていた国々で、日本のせいで植民地を失い、貧乏の底にあった。それで「貧者の互助会」EUを立ち上げた。
 すごく順調に行き、もっと労働者が欲しくなった。市場も拡大したくなった。EUを東欧、南欧まで広げよう。ポーランド辺りの安価な白人労働力が得られるじゃないか。ただ正面切ってそう言えないから旧ソ連に脅かされる東欧からの「難民受け入れます」みたいな看板を出した。すぐ引っ込めればよかった。ぐずぐずしていたらシリアやリビアから本物の経済難民が続々やってきた。

「移民国家」の看板を外さなかった米国と同じ展開になってしまった。メルケルもトランプ並みに「我々の言う難民にお前らは入ってない」と啖呵を切りたいところだ。
日本も他人事ではない。日中友好、日韓友好。みんないらっしゃいなんてやっている時ではない。

高山正之・コラム「変見自在」(「週刊新潮」2017年3月23日号掲載)より。「トランプ、ウソつかない」(新潮社、2017)所収。

 

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追 記

 いつの時代も、いくらか豊かになり生活の苦労が軽くなると、若い世代の考えは自由奔放の方向、あるいは過去を大切にする保守的な方向に分かれていくものだ。前者は、過去と歴史を蔑ろにし現在を過大視する傾向がある。その表現方法は、国民によって差があるだろうが、現在米国で生じている事態は、民主主義精神からほど遠く、過激かつ謀略的な様相を呈している。バイデン陣営といわれる米国民主党に集まり傾斜していく勢力は、明らかに上記の前者に相当するだろう。

 一方、WASPを基盤とした共和党は、限られた西欧白人移民の民草が支持母体だ。彼らは、インディアンの撲滅の首謀者であり、高山氏が奇しくも言い当てているように「ヒットラーも裸足で逃げ出すホロコーストから生まれた国」の建設者であり、血塗られた歴史を負っている。

 しかし、彼らを非難しアメリカのあり方を否定する資格が、現在の米国人の誰にあるというのだろうか。Political Correctnessを振りかざし、少数者を過度に尊重し、多様性こそ正義であるという民主党並びにその支持者の面々にあろうはずがない。

あなた方は、WASPが切り開いた血塗られた大地に、ゆうゆうと降り立ち、自由に生活している。そしてWASPの背負った原罪すら非難してやまない。この後発移民の子孫に過ぎない者にそんな資格があるはずがない・・・

アーリントンを忘れるな、冒涜するな。我々は靖国神社を決して忘れないし、ここを冒涜するものは許さない。(紺屋)

 

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