「核」の現実 (6)  天木直人の提言「もう一つの日本」


以下に掲載した論考は、天木直人氏が、関東地域の日刊紙「日刊ゲンダイ」の2011年5月18−19日の両日に「緊急提言」という形で寄稿したものである。本提言は、同氏のブログですでに提出された基本戦略と軌を一にするが、今回の提言は、その戦略の柱がより具体化されている。
本稿が心ある者によって大きく取上げられ、広範な影響力を持つと同時に、戦術の細部がより具体化していくことを望む。

  • 国民を救えないこの国の支配者たち 「日刊ゲンダイ」 2011.05.18. P.7

提言は,また同氏のブログ「天木直人のブログ - 日本の動きを伝えたい」にも<緊急提言! 我々の手で「もう一つの日本」をつくろう>と題して掲載された。以下はそれからの引用である。 

 2011年06月06日 (天木直人のブログ)
緊急提言! 我々の手で「もう一つの日本」をつくろう

1.国民を救えないこの国の支配者たち 

大震災が起きて3ヶ月近くたった今も何一つ救済策が進んでいない。しかしこの国の支配者たちが救えないのは被災民だけではない。沖縄県民は見捨てられたままだ。一般国民もまた切り捨てられてきた。
 実はこの国は、今度の東日本大震災が起きる前に既に行き詰まっていた。支配者たちの失政と無駄遣いで招いた膨大な財政赤字に苦しみ、それを解決するという口実で導入された競争至上主義の結果、格差社会が進み、若者や女性、高齢者、低所得者身体障害者などの弱い立場の国民が犠牲を強いられてきた。
 今こそ国民は、被災地の住民や沖縄県民に自らを重ね合わせ、ともに声を上げ、立ち上がる時である。自分たちの生活は自分たちで取り戻す、と。

2.原発事故とウィキリークスがあぶりだしたこの国の支配体制の病理

 今度の大震災で起きた原発事故は図らずもこの国の支配者達の権力犯罪を白日の下にさらした。権力にまかせて利権を山分けし、その悪業を隠すために情報を操作、隠蔽し、反対する者を買収し、歯向かう者をイジメ、弾圧する、警察、検察、司法までも歪める。
 この卑劣な権力犯罪は原発政策に限らない。およそこの国のあらゆる国策は、一般国民のためではなく、支配者たちのために、支配者たちの手で作られ、そして支配者たちの巧みな宣伝によって、正しいものとされて来た。
 その背後には日本を占領し、日本を利用し続けてきた米国の存在が常にある。それをウィキリークスが告発した米外交公電が見事に示してくれた。この国の官僚とそれに操られた政治家たちは国民よりも米国の利益を優先させてきたのだ。
 この支配構造を変えることは至難の業だと我々はあきらめてきた。政権交代にかすかな期待を抱いていた国民は、政権交代が起きても何も変わらなかったことで絶望的になった。
 しかし今度の大震災と原発事故は政府、官僚を追い込んだ。彼らでは国民が救えないことが白日の下にさらされた。一般国民がそれに気づいた。国民はもはや自らの手で日本を立て直すしかない。

3.行動を起こす事とは、「もう一つの日本をつくる」事である 

もう議論は十分だ。権力批判を繰り返しても効果はない。「行動を起こす」のだ。
私の言う「行動を起こす」ということは、この国の支配者たちが独占してきた権限と予算を、我々にもその一部をよこせと要求し、それを使って問題を解決する事である。
 たとえ一部といえども権力者が予算と権限を一般国民の分け与えるなどということは平時ではありえない。しかし今は大震災から立ち直れない未曾有の異常事態だ。おまけに原発事故という人災が被災民を塗炭の苦しみに追い込んでいる。
 沖縄は独立するしかないと菅首相自身がかつて呟いた。そうであるならば、当然の要求として彼らにはそれを要求する権利がある。支配者たちはその要求を拒むことはできない。
 東北と沖縄の住民はまったく別の意味で政府、官僚に見捨てられてきた。自分たちの生活と安全は自分たちの手で取り戻してみせる。その事で見事につながる。
 沖縄と東北につづく地方自治体が続出することになるだろう。

4.キーワードは脱原発、共生社会、世界都市である

 原発事故の被害にあった住民が真っ先に進めるべきは脱原発エネルギーの町づくりである。生活に必要な電力需要をコミュニティーで安く、安全に確保して住民に供給できる町にする。
 「脱原発エネルギーの町づくり」が成功すれば、その後の可能性は無限に広がる。「もう一つの日本」のコンセプトは、この国の支配体制が当然視してきた効率優先の競争社会、地位や名誉や待遇にこだわる生活、そういう既存の価値観に押しつぶされない人生もまた主権を持つ社会である。
 それは決して既存の価値観を否定するものではない。既存の生き方に価値を見出し、競争社会に勝ち抜いて行くことの出来る者たちはそういう生き方をすればいい。しかし、それが出来ない、したくない者たちの生き方もまた、等しく認められる社会をつくることである。
 その根底にあるのはベーシックインカム制度(無条件の所得保障制度)の思想である。支配者たちがつくった年金制度や社会保障制度は既に破綻している。その解決策を彼らは見つけられない。年金はもらえなくなるのに年金積立金だけは取り続ける。これは国家詐欺に等しい。それにかわってベーシックインカム制度を導入するのだ。面倒な手続きや審査をなくし、すべての住民が当然の権利として最低収入を手にする事ができる。最低限の生活が保障されれば、さらなる収入を求めて仕事を探す余裕ができる。これである。
 職については地方議会や地方公務員の職を住民の全員に開放するという考え方を導入する。つまりその地方政治の職を地方政治家や地方公務員に独占させるのではなく、ローテーションを組んで住民が分かち合い、その収入も分かち合うという考えである。これこそが地方議会改革、地方公務員制度改革の究極の姿である。
 今度の大震災は世界中の注目と同情を集めた。特に原発事故については、脱原発を目指す気運が世界的に高まった。脱原発を唱える世界の影響力のある人たちに向かって、日本の被災地から脱原発の町づくりをしますと宣言し、それに協力して欲しいと呼びかけるのだ。そうして世界の一流企業の誘致を行なう。利害を超えて協力する優良企業は必ず現れる。それを誘致することは雇用創出になり、なによりもその地域を世界的に魅力的なものとする。

5.三本の矢が結束すればできる

 住民(一本目の矢)が立ち上がり、その声を政府に届ける首長(二本目の矢)を見つけるのだ。原発に反対して国家権力から排除された佐藤栄佐久福島県知事がいる。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた南相馬市桜井勝延市長がいる。小沢一郎が本物の革命者なら、いまこそ国会議員を捨てて岩手の一首長(一兵卒)として中央政府に立ち向かう時だ。
 有力な著名人や経済人の応援団が三本目の矢である。彼らが「もう一つの日本」つくりに合流すれば鬼に金棒だ。大きなうねりとなって拡がっていく。

6.エジプト市民にできて我々に出来ないことはない 

今度の災害をきっかけに様々な復興計画が進んでいくに違いない。その復興計画は、根本的な変革を含むものになるかもしれない。
 しかしそれを既存の支配者たちの手に独占させてはならない。それを許せば、結局、何も変わらなくなる。支配体制が温存され、不公平、不平等が固定化していく。
 日本の変革は、これまで権力の外に置かれてきた者たちの手で成し遂げなければならないのだ。
 それはあたかもエジプトで起きた市民革命と同じだ。あの時エジプトの市民は、「一人一人がこころから国を変えたいと思った。ここにいる皆がヒーローだ」と語った。
 エジプト市民が成し遂げたことを我々ができないはずはない。

                             了

かつて、本ブログで2011年04月30日「ペルー地方放送局ラジオ・オンダ・アスルへ提供した震災記事−第二報」と題して、天木氏の提言の第一稿「もう一つの日本をつくる--誰かが行動を起こさなければならない」を掲載した。これは、ペルーの地方ラジオ局Onda Azulに提供した情報記事で、スペイン語訳されている。

天木氏の以前の第一稿とここに掲載した「緊急提言」とを比べると、再びいうが、その基本精神は一貫しているといえる。さらに、提言は一歩踏み込んでいるように見える。4項の「脱原発」「共生社会」「世界都市」がそれであろう。しかし、「戦術」というにはまだ不確かな性格のもので、戦略の具体的柱を提出したという段階である。現に、5項の「三本の矢が結束すれば」で、「三本目の矢」としてあげられていた具体的戦術項目が、ここに掲載した6月6日の記事では引っ込められており、天木氏の中でも具体的戦術はまだ固まっていないと思われる。

しかし、彼の「二つの日本」提言の戦略全体ははっきりしてきた。いよいよ、本格的に彼の提言を分析し論評する段階に立ち至ったようだ。その際には、筆者の抱く「二つの日本」の考えも明らかにせざるを得ないだろう。


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