「変見自在」は、閉鎖空間の変換自在

はじめに
私達はどこに今立っていて、ポジティブに未来を見通したいとするとどの道が開けているだろうか?

この見方は文句なく正しいといえる。そのためには、お決まりのように、現在地を理解するために過去を振り返らなければならない。これは現在を知るためであって、バックミラーの映像を見ているのとはわけが違う。しかしどこまで遡ればよいのか? よその影響によって制約された視野から開放される地点まで、つまりオリジナルな根拠が打ちたてられた時代にまで遡るのが正しい。そして、それ以降の歩みを見ると現時点が理解出来、自ずと未来に開けた道も見えてくるはずだ。

産經新聞記者でコラムニストの高山正之氏ほど、日本人の現状認識に役立つ歴史のまとめ方をする人はいない。氏の現状認識は、植民地主義者の米国政府に日本は嵌められ敗戦を喫した、そして戦争以降も嵌められ続け、敗戦国の憂き目を押し付けられているというものだろう。もちろん日本人は、置かれた状況で驚くほどの強さを発揮し続けては来たのだが。

しかし、高山氏は多くを語っていないが、トランプの登場を許した世界は、戦勝国-敗戦国の世界秩序のゆらぎを示しており、日本が真に敗戦国から脱却できる道が見えてきているのが現状ではなかろうか。

この明るい重要な事実は、また別の機会に譲るとして、前者の歴史を振り返るという作業を、高山正之氏に語ってもらおう。出典は「週刊新潮」の人気コラム「変見自在」からである。そのうち最新のものをまとめた単行本「トランプ、ウソつかない」(2017年11月)から頂戴した。

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米国の「日本処理」作戦:戦中〜占領期

フランクリン・ルーズベルトは先の戦争中、物狂おしいまでに日本を憎んだ。憎みすぎて最後は脳卒中を起こして死んだ。

なんで憎んだのか。彼は理由を語らないまま中国風の墓に入ってしまったから推測するしかないが、どうも日本に面子を潰されあことを恨んでいたらしい。彼にとって日本は大戦への参戦口実を作らせるだけの存在だった。つまり真珠湾を奇襲し、単純な米市民を怒らせ、米国の参戦を決定づければよかった。あとは米英の艦隊と絶対落ちないB17重爆撃機が「即座に日本を粉微塵」(チャーチル回想録)にして日本は舞台下手に消えていくはずだった。

で、ハル・ノートで挑発し真珠湾を襲わせるまではすべて筋書き通りだったが、そこからが違った。肝心のB17が見たこともない零戦に叩き落された。プリンス・オブ・ウェールズ以下英米の軍艦は半分以上沈められた。挙句、大英帝国の強さの象徴シンガポールも米国の太平洋戦略拠点フィリピンも落ちてしまった。

彼の側近ウィリアム・レーヒは「日本は、欧米植民地に縛られてきたアジアの民衆を反白人に変えるだろう」と言った。欧米の国々が国家財政の要にしてきた植民地は米国のせいでなくなっちゃったと言っている。事実、真珠湾から半年の間に英領ビルマも米領フィリピンも蘭領東インドインドネシア)もみな白人が追い出され、日本の指導の下でそれぞれに自治政府が誕生していた。仏領が続いたベトナムも影響され、英領インドも「白人に仕える中国は独立国なのになぜ我々は植民地のままなのか」と不満を言い出してきた。

何もかも小癪な日本人のせいだとルーズベルトは逆恨みする。どう仕返しするか。

彼はふとスミソニアン博物館のアレス・ヘリチカ(Aleš Hrdlička)(注)を思い出した。チェコ出身のこの人類学者は「人間の祖は欧州でうまれた」という超白人優越主義者だった。この男はルーズベルトが政権に就くとすぐ「のさばる日本を消し去らねばならない」と提言していた。

大統領はヘリチカに日本人はなぜ狂暴なのかと聞いた。「なぜなら日本人の頭蓋骨は我々より2000年遅れているからだ」と彼は答えた。日本はいずれ物量で叩きのめす。そのあと独立を望むアジアの民を含め、どう処理すればよいか。「アジア人の男は去勢し、女は白人と交配させ、文明化を図るといい」
日本はどうするか。 「日本人は混血させてもよくはならない」

ヘリチカのアドバイスを受けてルーズベルトは戦後処理を決めた。その考えをハイドパークの自宅で駐米英公使ロナルド・キャンベルに披露している。「米大統領はアーリアンとアジア人の混血を考えている」「ただし日本人は除外し、元の島々に隔離して衰亡させるつまりだ」(1942年8月6日付英公使電文)

戦後、GHQルーズベルトの遺言を基に戦後処理をすすめた。日本人は四つの島に隔離する。だから朝鮮、台湾だけでなくアジア、太平洋の島々にいる日本兵もそこに出ていた軍属、一般人もすべて引揚させた。逆に日本人でもない朝鮮人は日本人衰亡計画の邪魔だから半島にどしどし追い返した。それで600万人日本人が日本に、200万朝鮮人が半島に引き揚げていった。歴史に例のない民族強制移動だった。

この命令は中立国にいた日本人にも適用された。明らかな国際法違反だったが、だれが気にするものか。いや一人、気にする者がいた。ダブリン駐在の総領事、別府節弥だ。彼は「GHQに中立国在住の日本人外交官まで引き上げさせる権限はない」と帰国を拒絶した。

先日の産経新聞にこの気骨の外交官の話があった。英国のアーサー・パーシバルは実はアイルランド圧殺の極悪指揮官だった。シンガポールが落ちて彼が日本軍の捕虜になったと聞いてダブリン市民は別府ら在留邦人を招き盛大な祝賀会を開いたという。別府は終戦三年後に帰国しGHQに捕まった。

これで日本人を閉じ込めるルーズベルトの執念は実ったが、ただいまだに日本は滅んではいない■

(「日本憎し」のルーズベルトを跳ね返した気骨ある外交官。2017年2月23日号)

(注)
彼の出自は西欧からの移民の子で、アインシュタインがそうであったように東欧出身である。彼は、ベーリンジャ経由の「モンゴロイドアメリカ大陸拡散説」の初期の提唱者の一人であった。誤謬もあったが現在この理論は広く受け入れられている。形質人類学者としてのこの業績と、彼の現実世界での超人種差別主義の考えの根拠は、私にはまだ解明も理解もできていない

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米国の「日本処理」作戦:占領〜戦後期

マッカーサーは厚木につくなり「吊るすべき戦犯39人を捕まえろと命じた」とブリタニカ百科事典にある。

「39人」の根拠について彼の回顧録にも説明はない。ただ、米国のインディアン殲滅史に「リンカーンが命じた処刑者数」としてこの数字が出てくる。

米国のインディアン処分は狡猾だ。例えばワンパノアグ族を手なずけ、別の部族と戦わせて滅ぼしていく。その繰り返しで最後に残ったのを白人が手ずから処分する。リンカーンのころは大所でミネソタのスー族が残るだけとなった。米政府はその領土をすべて取り上げ、代わりに十分な食料や衣料品を支給する約束をした。しかし食料も何も届かない。抗議すると担当のアンドリュー・ミリックは「空腹なら草を食え」といった。堪忍袋の緒が切れ、スー族は彼の口に草を突っ込んで殺した。

リンカーンはそれを待ってスー族退治を命じ、降伏した頭目たちを「公平な裁判」にかけた結果、部族長全員に死刑を宣告した。その数が39人だった。処刑はミネソタ州マンカトで行われた。広場の中央に大きな処刑台をつくり、全員をそこに立たせて一度に吊るした。集団同時処刑では今も破られていない世界記録だ。

米国は先の対日戦争もインディアン処分に見立てていた。まず原住民同士で戦わせる方式の採用だ。米国はポウハタン蒋介石に武器とカネを与えて懐柔し、通州、上海のアパッチ日本人の居住地を襲撃させた。日本は中国軍を追い、南京から漢口へと泥沼に突っ込んで、結局は米軍によって敗北させられた。

マッカーサーはそこでリンカーンに倣い「公平な東京裁判」に立たせるものを39人とした。つまり「日本を、かつて滅ぼしたスー族に見立てました」というつもりなのだろう。実際、彼は戦後処理もスー族の処理に倣った。日本人から武器と戦士を取り上げ、丸裸にするマッカーサー憲法を呑ませた。

気掛かりは日本を倒すために増強した蒋介石軍だが、それも同じ方式でチェロキー毛沢東をぶつけた。みな潰し合って、万々歳と思ったら、あれ朝鮮戦争が起きた。日本軍を消した以上、処理は米軍がやらねばならない。米軍の死傷者は嵩む。おまけに毛の軍隊も歯向かってきた。何で俺たち白人がアジアの原住民と戦って殺されていくのか。

ここで馬鹿なマッカーサーがはたと気付く。日本軍を潰すのが早すぎたと。開戦7ヶ月目の昭和26年(1951年)1月、彼は年頭所感で「国際秩序を脅かす勢力を力で倒すことが日本人の責務」と言った。ヘンな憲法を押し付けて今更何を言う。吉田茂はそっぽを向いた。吉田には「新憲法、棚の達磨も赤面し」の戯れ句がある。天皇陛下まで辱めたマッカーサーが今更何を言っても日本人は聞く耳を持たない。

米政府はジョン・ダレスを派遣し、急ぎ再軍備して朝鮮戦争を戦えと命じた。吉田は再度拒絶した。結局、米軍は3万6000の戦死者を出して昭和28年(1953年)、板門店で休戦に持ち込んだが、その頃には仏領インドシナがもうきな臭くなていた。

同じ年、米副大統領に就任したニクソン仏印を訪問し、間もなく仏軍とベトナム軍の最終決戦場となるディエンビエンフーに立ち寄って仏将兵を励ましている。その足で訪日した彼は「日本の非武装化を敷いたのは米国だった。過ちを率直に認める」とマッカーサー憲法の破棄を公式に求めた。米国の仏印介入は決まっていた。間もなく始まるだろうベトナム戦争に今度こそ日本軍を投入しようという思いが滲んでいた。

しかしおなじ頃フィリピンの華僑系大統領キリノは対日賠償交渉の脅しに日本人BC級戦犯を14人も一度に吊るした。アジア人の我利我欲も極まった。他のアジア諸国も感謝の心もなく法外な賠償を請求してきた。日本人は白人だけでなくアジア人にも強い不信感を持ち始めた。ニクソンの話には乗らなかった。

今、トランプが四度目の日本再軍備を語る。今度の敵は中国か北朝鮮か。
やっつけても助けても意味はない連中だが、放っておけば日本が危うい。
今回は話に乗って自分の国はしっかり守りたいとみんな思い始めている。■

(「狡い米国が再軍備を迫るウラには何かある」2017年6月1日号)



参 考

https://www.dailymotion.com/video/xltb53
■[現代のコペルニクス] 白人は人間てはない、武田邦彦-高山正之(2016)


■[現代のコペルニクス] 白人の残虐性、武田邦彦-高山正之(2016)

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